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COLUMN

2025.11.26

「ネシ子が会う」長谷川カオナシ (第十九回)

こんにちは。フレネシです。

11月26日に初のソロアルバム「お面の向こうは伽藍堂(がらんどう)」を発売する、クリープハイプのベーシスト、長谷川カオナシさん。本作には、先行で配信中の「金木犀」「ハエ記念日」、NHK「みんなのうた」10・11月の放送曲「かくれんぼの達人」をはじめ、ご本人が作詞作曲を手掛けた全12曲を収録。

参加メンバーに注目。カオナシさんが敬愛する谷山浩子さん他、浩子さんと共に「ハエ記念日」をアレンジした石井AQさん、そして楢﨑誠(Official髭男dism)さん、simoyukiさん、ゆーまお(ヒトリエ)さん、小野武正(KEYTALK)さん、矢尾拓也さん、? meytélさんなど、豪華陣営がずらり。

さらには、クリープハイプのメンバーも共演。小川幸慈さんがギターで「ウサギとオオカミ」に、小泉拓さんがドラムで「馬の骨に候」に、尾崎世界観さんがボーカルで「僕の居ない明日に吠え面かきやがれ」に参加。

そして、驚くことに今回私も、アレンジャーとして1曲、参加しています。

そういうわけで、連載「ネシ子が会う」にて、カオナシさんにソロアルバムの制作秘話を伺いました。

■ソロアルバムの制作にまつわるウラ話

長谷川カオナシ(以下、カオ):リリースおめでとうございます。

―――フレネシ(以下、ネシ):カオナシさんこそ!おめでとうございます。

ここでカオナシさん、フレネシの皿をさっと取り自分の皿と交換する。

―――ネシ:なんでした?

カオ:「ハエ記念日」だから…。

―――ネシ:???(状況を理解する)あ、すみません…今、ハエいました?そんな…私も全然ハエ、大丈夫です。

(要約:ハエが止まった皿を自分のと交換したカオナシさんの育ちの良さが垣間見えるレディーファーストな行動に感心と動揺が入り混じり恐縮するフレネシ)

◆「ハエ記念日」は○○を書きたくて書いた曲

カオ:「除霊(フレネシの新曲)」も、「ハエも」、そうだけど、「ハエ」が配信されてハロウィンぽいっていうようなご意見があって。

―――ネシ:そこ意識されていました?

カオ:いえ、全くもってでしたが、結果そうでしたね。

―――ネシ:おどろおどろしいじゃないですか、なのにかわいいんで。たしかにもう何というか、この上なくハロウィンですよね。曲に色を付けるとしたら、何色ですか?

カオ:黒とか、だと思いますね。濃い目の群青色とか。

―――ネシ:私はすごく紫色を感じました。

カオ:寒色ではあるとは思います。マイナースケールだし。

―――ネシ:でも、ピアノのフレーズとか、特にかわいいなと思っていて。で、浩子さんに「ピアノかわいいですね」ってお伝えしたら「人のスコアを弾くのはすごく難しい」と…。

カオ:やっぱり、作詞曲の方にはご自身の癖がありますよね。

―――ネシ:なるほど…私の場合は、ピアノの演奏を求められるならコードだけ欲しいんですよね。

カオ:すごく分かります。ネシさんがそうだっていうのは。

―――ネシ:ピアノ育ちではない分、コードがあった方が全体が見えるというか。「ハエ記念日」っていつくらいに書かれた曲ですか?

カオ:5年以内だと思うんですけど、コロナ禍くらいですね。

―――ネシ:アレンジも同時進行ですか?

カオ:ピアノの弾き語りで1曲分書いて、弾き語りでもやっていました。私の曲って2分ぐらいしかないので、浩子さんにお願いするときに「できれば伸ばしたいです」っていう相談をしまして、イントロのフレーズだったり、「ご冗談を」の後のピアノリフだったり、感想に行く前のブリッジのような箇所だったりを書いていただきました。

―――ネシ:すごく物語的なアレンジだと思うし、あと何といっても「昭和歌謡」じゃないですか。昭和歌謡、通ってます?

カオ:ディグってないんですけど、いわゆる名曲、普通に暮らしている中でテレビから聞こえてくるようなものとかは大好きです。

―――ネシ:カバーしてみたい曲で「異邦人」って書かれていたんですけど、ちょっと「異邦人」ぽいじゃないですか。

カオ:「異邦人」書きたくて書いたような曲ですね。

―――ネシ:やっぱそうですよね!「異邦人」っぽいのにハエだし「異邦人」に行きかけて異世界に連れていかれるのが、面白いなと思いまして…。

カオ:「ハエ」のトラックで、「異邦人」のAメロは途中まで歌えますもん。

―――ネシ:泣きのコード進行が、おかしいくらいに昭和歌謡をなぞっている感じがあって…なのに歌っている内容が、ジョークなのか本気なのか、っていう歌詞だったりするので、そこに一筋縄ではいかない奥行きを感じました。

◆「金木犀」は絶妙なバランス…転調にまつわる話

―――ネシ:「金木犀」の中で一番好きなのが、イントロ終わりの「ティリリリリリー」の転調なんですが…

カオ:私もあれ、好きでして…あの箇所に関しては、「嬉し悔し」なんですけれど、アレンジャーのjoe daisqueさんがやってくれた転調です。その曲だけお願いしたアレンジャーさんなんですけれど。

―――ネシ:その方は、カオさんのお友達ですか?

カオ:友達からなんですけれど、基本的にはCM音楽をやられていて、そういったバンドアレンジもできるということで、お願いしました。

―――ネシ:私「金木犀」が書けないんですよね…(と、ノートにメモするも「せい」だけ平仮名のフレネシ)

カオ:私もまだ書けない、ヤバい。あの曲いくつか転調あるんですけど、冒頭がEm(G)から、AメロがDm(F)になっています。

―――ネシ:私にとって、あんまり聞いたことのない展開で、違和感が心地良く思えて…あと本編始まったときにテンポ感変わる感じがすごいあって。テンポ変わってます?

カオ:最初ドラムとキーボードだけなんですけど、そこはBPM120くらいで、Aメロ始まってからが130いくつか。

―――ネシ:テンポが変わり、キーも変わる…何か置いて行かれる感じがすごく好きで。私はいつも音楽には裏切られたいと思っているので、裏切ってくれてありがとうな展開でした。

カオ:嬉しいです。「ティリリリリリー」はファ♯がファ♮に変わるんですよね。DメジャーがDマイナーになるっていう。ダイちゃんは転調が得意な男です。

―――ネシ:今って割とポップスの中で転調入れて曲の雰囲気変えるっていうのが昔よりも当たり前にあると思うし、そうでなくては逆に飽きてしまうなんてことも、ともすれば言われがちだったりして。知り合いの作家さんが、転調につい頼ってしまうので、転調はここぞっていうときに使うようにしていると話していました。この曲の場合は、まだ物語が始まってもいないのに既に転調するし、イントロでそんなに態度を変えるんだ…と思って…驚きがありました。

カオ:基本4コードのループの曲なので、転調によって展開を付けるというのは技だなと思いました。

―――ネシ:勉強になりますね。

カオ:私ネシさんとLINEしていた中ですごく好きな話があるんですけれど、トリビュートアルバムなどで、既存の曲をカバーする際に「これだけ変えてやったぜ」「脚色してやったぜ」ってBADだよねっていう話をしたと思うんですけど。

―――ネシ:しましたね。「原曲を超えた」と豪語するのはどうなんだという話を。

カオ:それをネシさんが「品格がない」みたいな言葉で表現していて。

―――ネシ:なんて言ったかな?「おれたちオリジナル超えちゃったんですけど??」というその驕り、品性に欠けていて苦手…って、そんなこと言いましたね。光の速度を超えられないように、オリジナルは誰が何といおうとゼロ→イチだからすごいのですとも。

カオ:昨今の転調が多い曲ってそれに近い状態だなと僕は思うんです。

―――ネシ:ああ、そうかもしれないですね。

カオ:「金木犀」に関しては、そのあたりが絶妙なバランスだったなと思います。

―――ネシ:曲を調理していく中で「アレンジって何だろう」と思って、やっぱり曲の骨になっている部分って、メロディーとコードだと思っていて、音色変えたりだとか、転調もそうですが、アクセントがないと成立しないような音楽は自分の中で駄作になってしまうので。そうなる前の段階で「これはアリだ」「ナシだ」の線を引いていたりはしますね。カオさんの曲って割と4コードでループするものが多い印象で、あえてそうしているのかなというのを感じたんですけれど。

カオ:コード進行を開拓するのは得意な方ではないので、一つのループの中から曲を組み立てることの方が多いと思います。

―――ネシ:そんなにひねりすぎず、テンションを多用せずに作られているなあというのを感じまして…言葉ののせ方も、トリッキー過ぎないのがいいなあと思っています。

カオ:ありがとうございます。

―――ネシ:歌詞見なくても何と言っているのかが分かるし、活舌の差なのか言葉が綺麗に入ってくるので、すごいなあと思いますね。

カオ:意識している点なのでうれしいです。

―――ネシ:促音の「っ」についても言及されていましたね。

カオ:はい、日本語の「っ」はなるべく8分休符にするようにしています。

―――ネシ:言葉のイントネーションについても、音の高低にずれが生じないようにするとおっしゃってましたよね。

カオ:ライブで歌うときは単語の途中でブレスを入れちゃったりはするんですけれども、構造上そうなっていると机で作った感じが見えてしまうなあと個人的に思っています。こういうメロディーがあって、そこに一生懸命歌詞を考えたんだっていう作業工程が見えてしまう気がして、なるべく言葉の抑揚とメロディーの抑揚や文節と音節が矛盾しないようにメロディーを譲らせることが多いです。

―――ネシ:私はメロディーをやっぱり優先してしまうので、言葉に譲歩させるというか、譜割の作業が実は一番好きで。ハマりすぎるとあえて言葉を変えて、ハマらない言葉にして切る場所を変えてしまったりということもあるくらいで、そこが真逆で面白いなと思います。カオさんの曲のメジャー感はやっぱりそういうところにあるんだろうなあと思うんですけれど、某大御所ミュージシャンも全く同じことを言っていて、それを無視した曲を批判しているのを聞いたことがあって「あ…批判された。それは私だ…」と思いました。笑

カオ:指先っぽくてすごく好きなんですよ、それも。鍵盤を弾くように歌を歌っているな、っていうふうに、ネシさんに対しては思うんですけれども。全部歌の癖でメロディーを作っていくと、いつか枯れるものだと思うので…指先から出たメロディーは無限に近いと思うんです。

―――ネシ:自白しますが、それでもまあまあ被りは発生している気がします。

カオ:癖はある程度あっていいと思うんですけれど、ここでこんな高いところに飛ぶんだっていう点が面白いので…。

―――ネシ:ああ、そのせいで自分で歌えなくて困ったりもしますね、後で。

カオ:それって、技術が追い付けばいいことなので。

―――ネシ:ふふふ。ライブが嫌いな理由もそこだったりして。

カオ:ただ、作品に対してストイックってことだと思うんです。作品が一番大事っていうことなので、それはすごくいいと思います。

◆「かの森のペンフレンド」だけが「異質」に感じたワケ

―――ネシ:カオさんは、ルーツにフォーク、あったりします?「かの森のペンフレンド」のコード展開などに、フォークを感じました。これは、エレキギターですよね?この曲だけ何か異質な感じがして…アルバムの中で。アレンジも、エレキギターの音だけで成立している曲なので…特別感がありました。

カオ:はい。作曲に関しては、メロディーと言葉から作りました。トラックは、エレキギター1本というのは最初から決めていたことでした。

―――ネシ:なるほど。

カオ:メロディーを作って、ギターで弾くならこうだろうな、っていうのをDAW上で打ち込みまして、それでデモを作りました。

―――ネシ:1本でエレキというのが私はあまり聞いたことないなあと思い…そこも不思議な感じがあったんですよね。

カオ:リファレンスでそういう曲があったので、ハンバートハンバートの「白夜」っていう曲なんですけど、エレキギターのリバーブ感が軸で、うっすらオルガンが入って製品的に成立しているところはあるんですけれど、アンプが見える感じがすごくいいなあという風に思っていて。

―――ネシ:シンプルだけどすごく音にこだわりを感じて…あったかみというか、丸っぽい処理をしているなあと…。

カオ:あの曲は、歌とギターを一緒に録ったんです、同じ部屋で。

―――ネシ:てことは、アンプにマイクを立て、歌も拾っているだろうし、空間を録っているってことですかね。

カオ:今回のアルバムは、クリックがあってほぼ全員とデータのやりとりでアレンジしていったので、録音の工程が別日みたいな曲もあったし、このドラムはこの日だけど同じ曲のギターは別の日、みたいなこともあったし、そういうクリックありきの曲が多くて、すごく生っぽいみたいな1曲も欲しかったので…。

―――ネシ:だから異質な感じがするんですかね。

カオ:そのあたりは大きいと思います。

―――ネシ:これだけ有機的なんですよね。より有機的なのがアコギだろうし、エレキギターの場合はバンド的な音でないと物足りなさがあるのではないかと勝手に思っていたけれど、そうでもないんだな…と感じました。

カオ:そういうプレイが得意なギタリストにお願いしました。

―――ネシ:なるほど。生き物だって思いました。

カオ:はい、うれしいです。

―――ネシ:他の曲も生き物ではあるんですけれど、エモーショナルさを一番感じたのがこれだったので。ピアノの弾き語りをされる方の場合は、ボーカルと別々に録ることが難しいとおっしゃるんですけれど、レコーディングするときに同時に全部録りたいと…歌と楽器が共にあってこそ音楽になり得るというか。レコーディングで弾き語りをやったことはありますか?

カオ:自分の弾き語りはやったことないですね。

―――ネシ:いつかそういうのもいいんじゃないかなと思ったりしました。

カオ:ネシさんは、ご自身の弾き語りを録ったことはありますか?

―――ネシ:ライブでピアノと歌だけで弾き語りをすることはありますが、音源化はないですね。ウィスパーなので、楽器に負けるんですよ。なので、特に生のピアノだったりすると、難しさはあるなあと思います。

カオ:生ピアノってデカいですよね、音。

―――ネシ:そうなんですよね、思った以上に「ガン!」ってくるので…そして、不安定さがあるじゃないですか。で、その不安定さに負けちゃうというか…こっちの音が合っているのか分かんなくなってしまって。生ピ特有のコーラスがかってるような音が気持ち良ければいいんですけれど、もともとあまり生ピアノに触れてきていないので、生のオーガニック感にあんまり体がフィットしてくれないというか、声がどこに存在したらいいかが分かんなくなっちゃうんですよね。私はあくまでもクリックがあったりとか、機械的で揺るがないチューニングの方が心地良いですね。

カオ:とても良いと思います。ピアノが生でないといけないというのはややもするとステレオタイプかな、ちょっと短絡的な発想かなという風に思うので…。

―――ネシ:いや、本来はそうなんだろうなあとは思ったりして、逆にそれが私にとってはコンプレックスだったりします。デジタルの方が心地良いせいで、自分のレコーディングに生の音を入れたい欲がないんですよね。で、本当にデモ音源みたいな状態でもリリースできちゃうという。

カオ:デジタルが居心地良いというのは、ネシさんの場合はすごく分かりますね。

―――ネシ:カオさん自身はそうでもないですよね。やっぱり生楽器が…。

カオ:そうですね。でもアコギはもしかするとそんなに好きじゃないかもしれない。

―――ネシ:そうですか。最初に始めたギターは?

カオ:触ったのはアコギでしたが…今回、でももしかしたら一回も入ってないかもしれない、アコギに関しては。

―――ネシ:珍しいというか、フォーク的な要素があるのに、そういえば存在しない音ですもんね、アルバムには。では例えば、ナイロンギターってどうですか?

カオ:良いかもしれない。聴いてこなかったので、辞書になかったんですけど。電子音が居心地がいいという話なんですが、フレネシさんに「僕の居ない明日に吠え面かきやがれ」をお願いしました。で、この曲はどなたかにトラックを作っていただくというのが、私の中ですごくあったんですけれど、レコード会社から「こういう人、若手にいますよ」って何名か挙げていただいて。

―――ネシ:そうだったんですか。

カオ:で、聴いてみて「なるほどなるほど」だったんですけれど。でも、思い入れのある人にお願いしたいなと考え直し、二十代の時によく聴いていたフレネシさんにお願いしました。フレネシさんのトラックって、デジタルだけれども、人間の体温を感じるというのが大いにありまして。

―――ネシ:不思議な感じですね。何でだろ…。

カオ:やっぱり、手弾きが多いからなんじゃないですかね。

―――ネシ:あーそれはそうですね。基本的に手弾き以外しないですね。ドラムさえも。

カオ:鍵盤の人の手弾きのタイム感が好きで…それもクラシックの感じじゃないですよね。

―――ネシ:よく分かりましたね!耳が確かですごいです。何なら手弾きのバッキングもあんまり私はクオンタイズをかけなかったりもするので…。

カオ:はいはいはい、絶対、それがいいと思います。

―――ネシ:よく聴くとズレてるけど、なじむんですよね。自分は割と真ん中だっていうのは昔レコーディングしたときに言われたことがあって「クリックと一致しすぎていて気持ち悪い」まで…。多分いつもクリックと共存してたからだと思うんですけれど、まあそういうこともあって、自分のタイム感を過信しているところがあるかもしれないですね。耳が確かな人からすれば「これはナシだな」っていうのがあるかもしれないですが、まあそこも含めて歌に合うなと思うし、カオさんの曲に関してもあんまりクオンタイズをかけてない場所もあります。それは…良かったですか?

カオ:いやもう、絶対そうです。絶対的にそうです。

―――ネシ:良かった…特に、サビのバッキングはバラバラのまんま…残ってて…あと、SHOWROOMの際、吉田豪さんに言われたのが、私の曲は中音域以下がないって…それは他の曲に関しても言われますし、この曲に関してもそうで、アルバム全体を聴いたときに思って「私の曲軽いな…」って。割と下も入れたつもりが、他の曲はそのもっと下があったし、盛り上がったところで低音域の支えが他に比べるとあんまり感じないなあと思いました。それは大丈夫でしたか?ベースがチューバっていうのもありますが。

カオ:うーん、結構埋まっている方だと思ったっすけどね。でも普段のフレネシさんのって、あんま重厚な下っていない気がしますね、確かに。わたしはでもそれは好きですけどね。ウィスパー感とやっぱりマッチすると思いますし。

◆楢﨑誠さんの判断の的確さがプロすぎるという話

―――ネシ:この曲に関してはチューバですけど「鶏姫様」はバリトンですよね?音の質的に声のような存在に感じて、アカペラで歌っている一番下の人の声っぽい印象を受けました。

カオ:サックスって、楽器の中でも人の声の成分に近いという風にお伺いしたことがあります。

―――ネシ:そうなんですね。ベース音がバリトンサックスというのが、この曲に関してはとても合っていると思います。これを演奏しているのが…

カオ:楢﨑誠さんで、Official髭男dismのベーシストですね。

―――ネシ:ベーシストさんだけれどもバリトンも吹ける?

カオ:ライブでも吹いて、レコーディングでも最近始めたというお噂を耳にしました。

―――ネシ:すごいですよね。音が鳴る仕組みとしては同じベースでも全然違うじゃないですか。自分の体を通ってくる音だから…。

カオ:私は管楽器は一切できないので、そういうフィジカルな楽器で、なおかつベースというのはすごいなあと思います。あと、レコーディングが早かったですね、楢ちゃんは。自分はここまでできて、これは分けて録った方が早いとか、そういう判断に慣れていたので。

―――ネシ:プロだ。

カオ:ここは良い音色が出るまで挑戦させてほしいだったりとか、そういうアーティスト的なこだわりもちゃんとあったし。

―――ネシ:誰かに委ねたくなりますね、私は。カオさんはご自身で判断しますか?

カオ:判断しますが、エンジニアさんには大分相談しました。今回に関しては。

―――ネシ:たいやき(taiyaki~▲≡)さん?

カオ:はい、たいやき君に聞きました。

―――ネシ:たいやきさんは物腰が柔らかくて、女の子と雑談する気持ちで私はしゃべるんですが。

カオ:そういう繊細さはありますね。

―――ネシ:エンジニア系の方でちょっと珍しいなあと思って。バリバリ理系の方が多いじゃないですか。

◆レコーディングにおけるラスボスの話

―――ネシ:あ、そうだ!「馬の骨に候」の生ピアノのレコーディングに立ち会ったのですが、あの難しいフレーズに生ピで両手弾きにチャレンジしているのがすごいと思いました。

カオ:レコーディングにおけるラスボスでしたね。家には重鍵(おもけん)のキーボードがあるんですけれども、ローランドの。

―――ネシ:……オモケン?

カオ:ああ、重い鍵盤の…

―――ネシ:ははは…私昔持っていた楽器が、超重鍵でしたよ。ヤマハのP120っていうやつですけど。これ筋トレだなと思って。でも筋トレしてるから生ピでうまく弾けるわけじゃないんだなと思って。

カオ:そうなんですよね。

―――ネシ:重すぎて、生ピ弾いたときタイム感がずれて走っちゃうんですよね。そんなことないですか?

カオ:そうだな…そこまで緻密に感じたことはないです。ただ、やっぱ生楽器だなあという風に思いました。叩いたら叩いたなって音がするし。

―――ネシ:そうですね。トリルのフレーズとか、結構入ってましたよね。弾くパターンは決まっているけれど、トリルの有無やニュアンスを変えるなどしたのは、こだわった点ですか?

カオ:台本読んでる感じになったらちょっと恥ずかしいなという風に思ったので、だったらば、このトリルは省略した方が自分の技術に対してリアルだなというところは、現場で変えたりしました。

―――ネシ:セリフを丸ごと変えるっていうよりは強弱の位置を変えるとか?そういう引き出しをいっぱい開けている感じを受けました。

カオ:ご自身で考えたフレーズをレコーディングするときって、録るときに変えるケースってありますか?

―――ネシ:変えませんね、私は。例えばソロパートみたいなものがあったりすると、フリージャズだとその場で生まれたフレーズを演奏する面白さがあるけれど、どちらかというとカプースチンのスコアが好きで、あんなにフェイクっぽいのにただ一つの正解の音を選んできているのが美しいと思っていて。そういうものを目指していますね。ライブでもその通り弾くし、レコーディングでもそれ以外は弾かないっていう感じで。

カオ:やっぱり一貫した完成像というものがあって、作品が主体っていう感じがしていいなという風に思います。

―――ネシ:とはいっても、そこに自由度を持っているくらいの引き出しを増やしていければ、ライブも、より楽しめるのかもしれないですよね。

カオ:でもリスナーはやっぱり音源を圧倒的に聴いてきているので…

―――ネシ:そうなんですよね、だからライブではどれくらい音源を再現できるか…ライブをファンサービスと考えたら、それに尽きるのかな…なんて思ったりします。「いつも聴いてるあれだ~」ってなってほしいですよね。

カオ:そうですね。

◆もはや別曲レベル…ライブアレンジの話

―――ネシ:今回のライブアレンジに関して、ライブならではになっている曲ってどれですかね?

カオ:まあ最も離れているのは「鶏姫」だろうな…と思いますね。

―――ネシ:たしかにそれはもうそうですよね。コーラス一人多重録音ですから、そうせざるを得ないですよね。他のメンバーの方もダバダバ言ってますか?

カオ:いえ、もうバンドにしました。ギターバッキング、キーボードバッキング、エレキベース、ドラムも叩いているし、本当にバンドアレンジにしました。

―――ネシ:別曲ですね。ライブバージョン聴くのが楽しみすぎます。でも、音源化はしないですものね。

カオ:そうですね、そもそもスウィングロックにしようかなって思っていたんです。レコーディングに関しても。

―――ネシ:あ、これをですか?スウィングロックってどういうことですか?

カオ:ウォーキングベースで…

―――ネシ:なるほど…ポップスでよく聴くスウィング曲のイメージですかね。ということはバンドアレンジで原点に戻ったよってことですかね。

カオ:はい、それに近いものだと思います。

―――ネシ:あと、「恋する千羽鶴」もバンドアレンジにしているってことですか?

カオ:はい、バンドアレンジですね。

―――ネシ:ちなみにアレンジはカオさんが考えて演奏する皆さんに共有しているんですか?

カオ:そうですね。レコーディングと同様、ライブ用のデモ音源を作って、レコーディングのステムを使ったりとかはしながら…。

―――ネシ:それをちゃんと準備するのも偉いなあと思うし、私だったら多分「恋する千羽鶴」は、オケを流して一人で歌うと思うんですよね。この曲はいよいよゲストでsimoyukiさんがステージに登場して…ってことにはならないですよね?

カオ:実在するか分からないsimoが?笑

(※スタジオでのレコーディングに現れず、打ち上げでも姿を見せなかったため、もしかしてsimoさんはカオさんのイマジナリーフレンド(≒カオさん自身)ではないかという疑問をフレネシが投げかけた話を踏まえて)

―――ネシ:そうそう!心の中にしか存在しなかったかもしれないsimoさんがステージに立ったりするんだったら面白いなあと思ったりしたんですけれど…まあそういうことは起こらないってことですかね。

カオ:はい。

―――ネシ:いつか共演の予定は?

カオ:ライブではないと思います。でも一緒にラジオを…この曲はニコ動出身のゲーム実況の皆さんにガヤをお願いしたんですけれど…

―――ネシ:そうだったんですか。どうやって呼んだんですか?レコーディングは…?

カオ:全部データ納品してもらいました。

―――ネシ:じゃあ、ガヤのセリフを伝えて…

カオ:そうですね、こんな雰囲気でっていうのをお伝えして…レコーディングに来られてもかまいませんし、データ納品でもかまいませんし、とお伝えしたところ、やはり皆さんご自宅でゲーム実況を録られているので、それがやっぱり皆さんのベストコンディションだ、と僕は思うので、そういう形でやってもらいましたね。

―――ネシ:なるほど…声聞いて「あの人の声だ」って分かったりするんですかね。

カオ:分かる部分もあると思います。合唱パートは一塊にしたので聞き分けるのは難しいと思いますけれども、それぞれキメ台詞みたいなものを言ってもらったりとかしたので…

―――ネシ:じゃあいつものアレが出てくるみたいな部分もあったりするわけですね。

カオ:そういうおいしさもあると思います。

―――ネシ:実況の方って声が良いですよね。あの聞きやすさというか、盛り上げ方?の上手さというか…

カオ:やっぱり一角の方々だなあという風に思いました。

―――ネシ:ある種の声優さんじゃないですけど…スポーツ実況のような高揚感がありますよね。

カオ:ええ、近いと思います。で、その実況者の中で、YouTubeラジオをやられている方がいるんで、simoと一緒に出てみようかなって話はしています。

―――ネシ:あー!そうなんですか!出るっていうのはライブで?

カオ:simoと二人でそのラジオでお話をするってことですね。

―――ネシ:なるほど…私はあくまでもステージに上げたい気持ちがあるせいか、ライブの話をしているんだと思っちゃいました。でも、そういうアウトプットの手段が…カオさんはやっぱりご自身の連載があるじゃないですか。レトロゲームのベースラインをベースで弾くという、かなりマニアックなことをされていて、メジャーなバンドの方がそういう活動をしているっていうのは意外だけれど徹底しているし、そういう表現があるのは強みだなと思います。

カオ:そうですね、ニッチなことを大事にしているぞというのは認知されたいところがあります。

―――ネシ:ちなみにあの連載に関しては、ファンの方は付いてきてますか?

カオ:いや、全然ですね…。

―――ネシ:はわわ、、でも理解の範疇を超えた話を聞いている幸せというは絶対にあって、楽しそうに話している姿を見たいっていうファン心も分かる気がします。

カオ:それだけで見ていただいていると思います。よく分からない言葉を喜々としてしゃべっているなっていう。

―――ネシ:さてさて。大体こんな感じでいっぱい伺えたかと思うのですが、喋り足りないこと、あります?

カオ:私は…「吠え面」の起承転結を言っておきたいなあ…と思います。

◆「吠え面」にまつわる制作現場の裏話

―――ネシ:あれは4月末、でしたよね。突然だったんです。何の予兆もなく、カオさんから直接、XのDMでオファーをいただきました。このとき、即データをいただいたんでしたね。ご依頼は率直にとてもうれしかったです。でも、自分は11年も休眠中だったのと、初のアレンジ案件だったもので、どうしていいか分からず。さらにはまだ返事をするか迷っている段階でデモ含め全部いただいたのが衝撃だったというか。そんな門外不出の貴重な音源を共有されたら、もう「NO」って言えなくなってしまって。笑

カオ:ああ、追い込んでしまいましたか?

―――ネシ:製品になる前の状態を「初めまして」の挨拶と同時に渡すんだ…と思って、正直びっくりしました。笑

カオ:正直、6割くらい難しいかもなって思いました。ステムも送ったし、ここまでの別のデモも送りましたけど、お断りされても仕方ないなっていうのは思っていました。関係値が一切なかったので、私が何者かっていうのは一回提示した上で、それでも違います、お断りですっていうのでしたら、もうしょうがないと思ったので。

―――ネシ:ああ…なるほど。私には当時、音楽をできる環境がなかったのと、アレンジだけを仕事として受けた経験がなかったので、潔くお断りするつもりでいたのに、イタルさん(乙女音楽研究社レーベル主宰)がうちに来てDAW環境を整えちゃったものだから、断れなかったんですよね。

カオ:八方が…

―――ネシ:内からも外からも…四面楚歌の状態で。

カオ:「楚」?(と自分を指しながら)

乙女社社長がこのあたりから参加(以下乙):サポートしたって言ってほしいですね。

一同:笑

―――ネシ:地獄の門を開けられてしまった…と思いましたね。ここまでしていただいて「NO」って言ったら自分の運命に負けるような気がして。それが最初に試されたポイントでした。私はとにかく130歳まで生きなきゃいけないと思っていたので(※子より先に死ねないの意。息子に障害があり、生涯にわたって自立が難しいため)それに相反することをどうしても選択できなくて。

乙:ほんと最初はそういうモードでしたよね。

―――ネシ:そう。だから私はイタルさんにも「やらない」って言ったような気がするんですけれど、なんかもうイタルさんと松尾さん(ディストリビューター)がニッコニコで話を進めていて。そのころ、キュプラのLPリリースに向けて、週一の定例会をやっていた最中で。松尾さんは「尾崎さんが一人でメディアに出ていることが多いけれど、実はカオナシさんの人気もすごい」とおっしゃっていて。私はもはやアーティストではなく、主婦であり一般労働者なのに…

乙:(かぶせ気味で)いや、アーティストだよ。

―――ネシ:それでもアーティスト然として扱ってくれるこの人たちに報いたい気持ちもあって。そして、カオさんに依頼されたこと自体はありがたくて、新しいことに挑戦してみたい気持ちもあって。でも9:30-18:00で働いて、音楽まで始めたら、一体いつ子供の面倒を見て、いつ家事をするんだろうと思い…結局削ったのは睡眠時間なんですが…でもそれが結果良かったわけですけれど。あと、サーカスっていうキーワードを出したときも、最初はずっと言えなくて…。

カオ:2か月くらいありましたよね。

―――ネシ:サーカスっていうワードは最初から存在したのに、カオナシさん的に違ったらどうしようと思うと相談できなくて。いただいた時点でアレンジされていたのですが、その雰囲気との乖離も大きくて。

カオ:お引き受けいただいたのは5月でしたっけ。

―――ネシ:はい、5月末ですね。

カオ:で、じゃあお願いしますって、私丸投げしちゃったんですよね。

―――ネシ:そう、で丸投げされたわけですけれど、一応何もしてなかったわけではないことをここではちゃんと弁明したいです。笑 とにかくリファレンスを提示したかったんです。なので、資料集めに奔走していたっていう…。でもそれを提示する勇気がなくて。やっぱり、一面でしか見てなかったので、そもそもクリープハイプの音楽性と、私の引き出しにあるものがかみ合っていないように思えて。私はロック的なものを全然知らないし、そうじゃない引き出ししか開かないんで、自信がなかったってことですかね。

カオ:で、6月19日。

―――ネシ:そう、で、そこで初めて会議をしたわけですね。

カオ:その前ぐらいに、私結構レコーディングがあって、やっぱ参加してくれる方にイメージを伝えるって大事だな…って思った直後だったんです。

―――ネシ:他の方にはどういう形で伝えていたんですか?

カオ:それこそ、ペンフレンド録った直後だったんですけれども、デモのやり取りをしていて。

―――ネシ:参加者は…?

カオ:ギターの伊勢さん一人だったんですけれど。

―――ネシ:イメージは簡単に伝わったわけではなかったんでしょうか。

カオ:打ち込んだものを送って、弾いたものを送ってくれて、イントロはこっちの方がいいですねっていうことを言ったりだとか、で、レコーディング当日にあの曲に関しては何度も録ったので…何度も録っているとテンションも下がってくるじゃないですか。じゃあこっからここまでは分けて録ってみましょうという提案をしてみたりだとか。

―――ネシ:ああ…難しいそれは。できることなら勢いで一気に録りたいですよね。

カオ:ええ、それでディスカッションって大事だなって思っていたときに、まだアレンジが出来上がっていない曲をお願いしているフレネシさんと全くディスカッションしていないことに気が付いて、これ多分悩んでいるんじゃないかなって思ってLINEをしました。

―――ネシ:私あのとき「めちゃくちゃヤバい」って思ったんです。ついに来てしまった…夏休みずっと遊んでいることが親にバレちゃったような瞬間ですよね。何も作っていないわけですから。

カオ:ただ、具体的な宿題を提示していないような状態だったので、実はこういうことでっていうお話をしたくて。で、Zoomがいいのかなと思ったんですが、お話をしたこともなかったので。「Zoomなどいかがでしょうか」とお伺いしたところ、LINEのチャット上での案件となっていきましたね。

―――ネシ:そうですね…そのときに私は会議をするかの返事をしなかったですよね。

カオ:その件に関してはなかったですね。

―――ネシ:私は宿題やってなかったので…文字通り顔向けできなくて…Zoomは絶対に避けたかったんです、申し訳ありません…。たとえ自分が顔出しをしないとしても、そこにカオさんの顔があったら……圧力に負けてしまいそうで。

カオ:圧ですねそれは。笑

―――ネシ:私の心の弱さで…怒られているような気持ちにもなるし、リアルなトークがもともと得意ではないっていうのもあって。

乙:当たり屋みたいな話をしているなあ…自分からこう…被害妄想で…。

一同:笑

―――ネシ:私は本当にもう謝らなくてはいけない立場で、返事したくせに宿題どころか連絡もしないじゃないですか。プロとは言い難いその作品への姿勢が伝わったらどうしようと思っていたんですね。それからもっと言うと、自分がクリエイターとして空っぽであることがバレるのが怖かったんです。

カオ:いろんな奏者さんとやる中で、いろんなタイプの方がいらしたので、必ずしも電話が絶対正解ではないっていうのはありましたし、結果、LINEのチャットというのは最適だったと思います。

―――ネシ:で、最初にカオナシさんにすごく謝られたのがびっくりしたというか。歌詞の中に「他責志向の」ってある割にはすごく自責思考だなあと思ったし、謝られたことでますます追い込まれるんですよね。それで一言も聞き逃してはいけないように思って、テキストで残したいという思いで…。

カオ:慎重ですよね、そのあたり。一度一対一で別件でお話ししたときも、議事録を取るという。

―――ネシ:そうじゃないと不安だなあと思うし、お仕事として受けているので…これに関しては期限が6月末と聞いていたので、ここでエンジンをかけてもらえて本当に良かったし、一旦冷静になって、これまで自分が集めてきた参考資料をやっとアウトプットするときが来たと思いました。

カオ:いろいろ送ってくださいましたよね、バイオリンの…

―――ネシ:ボビー・ヴァレンティノですね。70sのネオロカバンドのファビュラス・プードルズのメンバーなんですが、フィドルっぽいバイオリンを弾くので、カオさんぽいなあとも思って…それからユレウス・フチークの「剣士の入場」のイントロ、チューバは90sの仏アーティスト、ジャディス・オルセンの唯一のアルバムから。あとは小説とか漫画とかを送りましたね。私の中で引き出しに入っているのが音っていうよりは文章だったり絵だったりしたので、世界を共有できるものがそれしかなかったという。音って強すぎて、普段もそんなに聴かなくて…どちらかというと自分のタイミングでやめることのできる本や漫画の方が好きで…それを共有したところで伝わったかは分からなかったんですけど。

カオ:ただ、これを面白いと思うディスカッションがゼロではなかったというのが大きかったのではないかな、と想像します。他のプレイヤーのメンバーは友達が主だったので、私がしたいことはは言わずとも理解してくれていましたが、フレネシさんとは初めてで、この人は何が好きで何が嫌いなのかっていうのがゼロの状態から始まったので、そういう漫画作品などに関するディスカッションは大事だったなあと思います。

―――ネシ:尾崎さんの歌をどうするかという議題もありましたね。最終的にはうまい具合に入ったなあと思うのですが。

カオ:フレネシさんにお願いするということが大きかったので、フレネシ×カオナシみたいになるのがいいなと思ったんです。でもその曲に尾崎さんにはアイコニックに存在してほしかったので、三つ巴みたいになったら、アルバムの中でどういうバランスになるんだろうなというのはずっと録るまで不安だったんですけれども…私は尾崎さんには最初サビを歌ってくださいとお願いしていたのですが、録る直前に「サビはカオナシが歌った方が良いと思う」と言ってもらえて、私もうすぼんやりそっちの方が良いよなって気はしていて。だからああいうバランスになりました。

―――ネシ:なるほど。「馬鹿馬鹿しいから歯ぁ磨こったらいちぬけた」の歌詞、ここで急に真顔になるじゃないですか。別キャラが諭してくるみたいな、まさに尾崎さんのポジションだな…っていうか、別の声であるべき歌詞だなとは思ったんですよね。

カオ:そうですね。別の声であるべきだと思いましたし、尾崎さんには声で参加していただきたかったので、いい落としどころだったなとは思います。打ち明けましたよね、懸念点として…

―――ネシ:そのときは最終的に歌としては入れないという選択肢まであったと記憶していますが…。

カオ:最後に録った曲だったので、私じゃない声がどれだけ入るとアルバムの中にマッチするのかっていうのが最後まで見えなかったんです。

―――ネシ:このアルバムでコーラスで参加されている方は…?

カオ:5曲目の「あなたはきっと」と、7曲目の「金木犀」は星野菜名子さんがコーラスで参加していますが、コーラス屋さんなので作品に溶け込むことが上手なんです。

―――ネシ:じゃあ、尾崎さんくらいキャラが立っているのはこの一曲ってことなんですね。

カオ:ですね。あとはフレネシさんの笑い声ですね。

―――ネシ:あ、そっか。笑い声入れましたものね。

カオ:ご自宅で撮った笑い声すごく良かったですね。

―――ネシ:そうですか。私は…普段あんまり楽しいことがないもので…

乙:そんなことないでしょ。笑 

ヨシナガ(カメラマン。以下、吉):どんだけ地獄に生きてるんだ?っていう。

―――ネシ:いや、うすら笑いしかできなくて…

乙:フレネシさん楽しそうに生きてるって。

―――ネシ:楽しいことなんてそんなに起こらないですよ。こうして、苦しみの中で生きてるじゃないですか。

乙:「ビジネス楽しくない」だ。

一同:笑

乙:でもアルバムを一つゼロから作り上げるって本当に大変ですよね。

―――ネシ:一人で作るならできなくはないんですけど…

カオ:それがすごいですけど。

―――ネシ:これだけ多くの方が参加していることが私は本当にすごいなあと思っていて…人をまとめる作業って、曲作りとは違う能力がめちゃくちゃ必要じゃないですか。そっちの作業に取られてしまうと、相手がこの場を気持ちよくやり過ごしてくれることが一番の正解になっちゃうんですよ、私の場合は。あるいはもう途中でそれはどうでも良くなって、この人と喧嘩してでもこの音がいいみたいになってしまうので…だから結局余計なストレスがエモーショナルな制作のスピード感に水をさして、ブレーキとして作用してしまうんです。でもカオさんの場合は調整がうまいなというのは思いました。

カオ:めちゃめちゃうれしいです、ありがとうございます。

―――ネシ:ミュージシャンとしてそれができるのは、実はとても貴重な能力ではないかと思います。

カオ:ベストパフォーマンスって、ストレスから生まれることもあるけれども、基本的にはリラックスしているときに出る音が私は好きなので。多分、今回アサインした皆さんは緊張してレコーディング現場に来ていたはずなので、それは大丈夫ですよっていうのはなるべく伝えるようにしました。ネシさんに対しては「作ってもらう」だったので、「これは良いです」。「これは違います」は言いましたっけ。

―――ネシ:カオさんの場合は、「違います」の前に必ず褒めるので、それって心理学のABA(応用行動分析)にも準ずる手法なんですが、強化子(報酬)として褒め、モチベを上げた上でやってほしいことを伝えるといったお願いの仕方がうまいなと思いました。やることが明確だったし、自分がしばらく音楽から遠ざかっていて、出している音に自信がなかったんですけれど、そこをフォローしてもらえていたおかげで、形にして堂々と提案することができますよね。LINEでのやり取りの中でカオさんには伝えましたが、もし音楽をやっていなくて普通の会社員になっていたとしたら、マネジメント能力が高いので早々に出世したんじゃないか…なんて話もしましたね。理想の上司的な。

カオ:BADな提案が一個もなかったのは確かなんですが、その上で私がやりたいことと一致しているか乖離しているかというところを、じゃあこちらに行ってくださいというだけの話だったので…まずGOODは一度お返ししてからやっぱり右側でお願いしますという論調だったと思います。

―――ネシ:それはそうですね。あ、そうだ!これは制作中にはお伝えしていなかった話なんですが、冒頭の象の声に呼応する形で、異世界っぽいホーンセクションを2コーラス前に入れたんです。

カオ:結構そういうのを仕込んでいましたよね。最後がメジャーコードっていうのも…

―――ネシ:この歌詞の構造をお話しいただいたことでそういうアイディアが生まれたので、伺ってよかったなあと思います。「良い天気だよ明日も」の部分で希望を表現したと伺ったので、メジャー終わりにしようと思ったんです。中盤で解説をお願いした件については、クリープハイプの動画を見ていたときに、尾崎さんが歌詞の解説をする動画に行きついて「もしかして作者自身に歌詞について語ってもらうのはめちゃくちゃありなんじゃないか」と思ったんですね。だからカオさんにも聞いてみたくなったんです。他の曲に関しては、そういうやりとりはされましたか?

カオ:ほとんどしなかったですね。プレイヤーの皆さんに対しては。

―――ネシ:アレンジじゃないからか…もっとディレクションがシンプルですものね。

カオ:浩子さんとは、「ハエ」に関してはざっくりと言いましたけれども。でもネシさんには言わないつもりだったので…アルバムの中で一番攻撃的な歌詞だったので…

―――ネシ:「なんでこれが私なんだろう…」というのは思っていて、他の曲の中にはもっとかわいいのもあるし、「こっちやりたい」って内心思っていました。どうしてこの曲だったんですか?

カオ:一番どうしていいか分かんない曲だったので…フレネシさんからどういうトラックが来るのかも分からないけれど、フレネシさんに頼んだということでもう満足しているみたいなところで…フレネシさんがどんなものを出してきてもお願いした、作ってもらえたというところで納得できたんです、僕は。

―――ネシ:お願いする側は…それでいいかもしれないですけれど…全く親しくないじゃないですか、その時点で。全く親しくない人に、よく一番どうしていいか分からない曲を…こう…押し付けるな…っていう。

一同:笑

カオ:それは…ほんとにそうです…ええ。

―――ネシ:その距離感のバグり方みたいなのも…よく分かんないなあと思ったし、他のかわいい曲も聴かせつつの…「コレ」…って言われた私の立場を考えてほしいんですけど…

一同:笑

カオ:私だったら嫌だなーと思いますね

一同:笑

―――ネシ:じゃあもし、私が詞の表層だけをなぞって「攻撃性が高いリリックだな…そうだ。デスメタルにアレンジしよう」と閃いて、デスボイスで歌ってくださいとディレクションしたら、カオさんはどうしますか?

カオ:面白いですね!そうだなあ。「面白いですね!挑戦してみます」って言って一度はデスボイスverのデモ録ってみて送るかもしれません。っていうかフレネシさんが作るデスメタルにも興味ありますね。笑 そのオケの上で私が普通に歌うのも面白そう。

―――ネシ:お?意外な返答いただきました。笑 その世界線見てみたいですね、私も。絶対に嫌だって言われるかと思ったのですが、乗っていただけるなら俄然アリな気がしてきました。あともう一点、アレンジ仕事は私にとって今回の案件が初めてで試行錯誤しながらの制作だったわけですが、もしアレンジのみの仕事をお願いされたら、カオさんどうしますか?

カオ:1コーラス分、2、3パターン作って出すかなあ。簡素ではありますが、ABCルートで提出してみるかなあ。じゃあCの方向ならCで作ってみますってしますね。やったことないですけど。

―――ネシ:なるほどなるほど。提案はしませんでしたが、最初これを3拍子にしようと思って、そうなった可能性もありました。

カオ:それはそれで「それで行きましょう!」って言うと思います。

―――ネシ:どっちにしろサーカスなんですけど。7歳のときに初めて作った曲がワルツで、自分のルーツにもかかわる話なんですが、4拍子でない曲、結構変拍子の曲が多くて…5/4の曲とか。

カオ:火まつりを5拍子にしていただいたりとか。

―――ネシ:ふふふ。カバーしましたね。

カオ:で、6/19のディスカッション以降、2週間くらいすごかったっすよね。デモのスピードが。

―――ネシ:ラストスパートで宿題をがんばったんだなあ。私。

カオ:夜な夜なすごいやり取りをしていた気がします。育児もされているので、いつ作っているんだろうって不思議に思いながら。申し訳ないんですけれども。

―――ネシ:深夜作ってましたね。子供がいる状態でイヤフォンを装着すると、子供を無視することになるので…無視した後の子供の大変さっていうのがあるので、子供が存在しない状態でないとどうしても作れないんですよね。

カオ:ご自身のスイッチもありますしね。

―――ネシ:そうなんですよ。子供が10時半には寝るので、そのあと家の片づけをして、夜の11時半から明け方の4時くらいまでを連日の作業時間としていました。それでだんだん寝ない状態がOKになっていくんですよね。音が脳内で鳴るようになって…夢でもずっと音楽が流れていて。そこでスイッチが入って「あれ?私曲作れるかも?」ってなって、この裏でウォーミングアップ的に曲を作ったりもしていました。で、6/20あたりに奇しくもNegiccoのMeguさんから楽曲の制作依頼が来て…私はもうこのとき曲を作れるようになっていたので、躊躇なくOKすることができたんです。そっちも並行して曲を作ったりして、そうすることで相乗効果でこちらの引き出しもどんどん開いて…

カオ:二つ同時に作ってうまくいくのはちょっと分かります。

―――ネシ:一つに集中するよりも、走りますよね。

カオ:まあ負担が大きいですけれどね、体には。

―――ネシ:それで、アイディアの幅がリベラルになるというか…言葉としてリベラルというのはおかしいかもしれないですが、音楽に対して寛容になれるというか…そうだ、私これを一度レゲエにしようとも思ったんですよね。

カオ:レゲエって引き出しにあったんですか?

―――ネシ:多少はありますよね。

カオ:裏打ちではあるか…

―――ネシ:そうそう、裏打ちだし、スカとか?とはいえ、裏打ちということぐらいしか私はピントが合っていないんですが。最初これをラップっぽくしたいとも言っていたし、私はレゲエのことを退廃的なものだとどこかで思っていて、この歌詞も割とそういう面があるので、そういう引き出しを開けてみてもいいのかなと。でも、これはもうサーカスと決まっていたので、レゲエは蓋をしました。Dメロの落としのところも、曲調が変わっていったのは、Meguさんのをやっていく中でアイディアが出てきたし、何ならピアノの音色を私は気に入っていて、このピアノの音色が、後々の「除霊しないで」につながるわけですけど。「吠え面」のプロジェクトの後ろの方に「除霊」のAメロの原型が残っているんです、実は。なので、音色に導かれてフレーズも出てきたりしたし、頭の中で回路がつながったんでしょうね。

カオ:堰を切ったような…?

―――ネシ:なんかそんな感じで。そうしたら、そんな頃、余談ですが本業の方の会社がヤバいぞってなって、私のリストラ話が浮上して。

吉:ああ、いいタイミングでしたよね。

―――ネシ:なので、私はヨシナガさん(上司)がそれをポジティブに話してくれたおかげで、「私、持ってるかも」って思えたんです。「ヤバい」から。

吉:いや、持ってます。会議中も音が流れてるって言ってましたものね。もうスイッチ入ったなって。とても良いと思います。

―――ネシ:でも私は、出てきたものがストレスなく出てくることにちょっと不安を感じていて…やっぱりある程度苦しんで生まないと名曲にはならないんじゃないかという思い込みがあって。その辺はどうですか?今回のアルバムで一番ストレスなく出てきたのって、どの曲でしたか?

カオ:ストレスの所在にもよるとは思いますが、「千羽鶴」がやっぱり早かったですね。「ペンフレンド」と「千羽鶴」が早かったです。

―――ネシ:そうなんですか。歌詞を見ても、「千羽鶴」って情報量が多いじゃないですか。単純に言葉の詰まり方が。

カオ:「千羽鶴」の歌詞は、ストックリスト全開放みたいな感じなんですけど、昔のストレスの集合体なんですよね。それを今ストレスない私がじゃあここに配置しようっていう。なので、その工程自体は楽しくできましたね。

―――ネシ:そのストレスがまだありありと存在しているもので、扱うたびにストレスをもっと生々しいものとしていちいち自分で噛みしめてしまうというか…噛みしめませんか?自分の書いた歌詞に苦痛を感じてしまうことはないですか?

カオ:そういう場合もあります。

―――ネシ:ライブで歌うのしんどいなとか?

カオ:そこまで入ったりはあんまりしない…ありますか?

―――ネシ:ありますね。私何でこんな歌詞を書いてしまったんだろうはまあまあありますね。でもそれは私にとって曲を作るということ自体が、自分のバランスを取るためで、そうやって生まれてしまうので…やむを得ないんですけど。だからライブが愉快でないのは多分そういうことだと思いますね。でもカオさんの曲の場合は、それすらも一歩引いて俯瞰してる感じなので、うまい具合に消化できた後の…

カオ:そうですね、語り部として歌っているかもしれないですね。私自身が主人公で辛いですっていうよりはそういう人がいましたという感じの。で、これは7月の初週くらいに出来ましたか?

―――ネシ:あ、そうですね。6月末にはもうほとんど出来ていて、耳を一回休ませるとか言って…ちょっと間を開けて、それでOKにしたんですよね。最後改めて聞いたら謎のリズムトラックが入っている箇所があって。

カオ:そこだけ出てくるのとかありましたよね。

―――ネシ:そこだけ出てくることについて、イタルさんから指摘をされて「あ、確かに」って。でも自分は何とも思っていなかったので…で耳がおかしくなっているのかもと思って、それで間を開けてみたりしたんですけれど。でもそれでもう、まとまっていましたよね。

カオ:あそこであれが出てくることも、何かしらの怨念があるんだろうなって思いました。

―――ネシ:怨念…間違って入っているだけかもしれないですが、存在してもそんなに邪悪ではないなと思いました。

カオ:少なくともノイズではないし…ずっといたような気もする。

―――ネシ:そういうメンバーがいてもいいんじゃないかなという感じで。あと、笑いながら怒る人みたいなことを言っていたの、あれは何だっけ。

カオ:何かありましたね。

―――ネシ:メジャーからマイナーに切り替わる、2回目のAメロの部分ですね。そこのコーラスはすごくいいなと思いましたね。

カオ:もともとはマイナースケールのまま書いたメロディーなんですけれども、ネシさんにトラック作っていただいて、ここはメジャーの方が面白いかもと思って。

―――ネシ:でも最初のメロディーもすごく好きで「あ…これなくしちゃうんだ…」と思って。それは言わなかったけれど、本当は最初にいただいた音源のフレーズ自体はすごくいいと思っていました。ただ、新しく出てくるものに興味もあったので、あえてそれは言わなくて…結果、まあ良かったんですけど。

カオ:あの…今日来る前からずっと言いたかったんですけど、フレネシさんはその…LINEをしていて「この提案て面白くないんだろうな」っていうのってめっちゃ文章で分かります。

一同:笑

―――ネシ:え??何でですか???え…そんなことあったっけ?

カオ:いつもそうです…。

一同:大爆笑

乙:めちゃくちゃおもろい。

―――ネシ:例えば何ですかね?そんな、バレないように書いてるのに?多分いろんな人にバレてるんでしょうね。急にテンション下がるとかですかね?そこは無視して次の話にいくとかですかね?

カオ:一応飲み込んでくださるんですが、本当は賛同はしていないんだろうなというのは、すごく感じます。一緒に作っていったので、あ、でもちゃんと言ってくれますけどね。後で。

―――ネシ:後で言うのも嫌ですよね。その場で言わないっていうのはやっぱり…。

カオ:本当にやっぱり、好き嫌いとか、したいしたくないがはっきりされているので。

―――ネシ:もう少し大人であれとは思うんですけど、私が人と一緒に音楽を作れない理由はそれで…。

カオ:だからアーティストだと思うんですよね。

―――ネシ:バンドだったら多分、活動再開はないと思うんです。二度とやりたくないって言われる側だと思っていて。私、結構昔からなんですけど、友達が毎年変わるような人生だったので。

カオ:意外です。

―――ネシ:コミュニティに上手く所属できていなかったと思うし、疲弊しすぎて自分が興味を失ってしまうことも多々あり…音楽もそうなんですけど、ちょろっとバンド的なことをして、そのあと関わらないとか。うまいこと離れて、また仲良くするということは、だんだんできるようになってきたとは思います。

カオ:技術として身についたような形ですか?

―――ネシ:多分ですけど、距離を取ることがうまくなったんじゃないかなと思います。ストレスになる前に自分から離れたりとか…一緒に居続けるから難しいんだろうなとは思います。

カオ:大いにあると思います。

―――ネシ:なのでカオナシさんがずっと同じバンドで続けたりとか、その一方で昔からのお友達を誘ってソロアルバムをちゃんと作っているのがすごいなあと思います。

カオ:バンドは15年以上やっていて、バンドメンバー同士、これは近付きすぎだな、これは離れすぎだなっていうのをやりながら、ちょうどいいところになっていったような感じですね。で、友達とは今回やりましたけれども、友達と仕事すべきでないっていうのは結構あるんですが、何かが変わるのは間違いないので。

―――ネシ:変わりますよね。友達じゃなくなっちゃうんですよね。仕事ってなると。

カオ:ま、でも一本限りだったりしたので。今思えばですけど、この人ともう友達出来ないな、はなかったし、かといって忖度しすぎてつまらんない音になったのもなかったように出来たと思います。

乙:ソロライブのサポートで友達は登場しないってことですか?

カオ:今回に関してはレコーディングに参加してくれた3名とベーシストで、4名にサポートして頂きます。みんな友達ですね。2回リハーサル入りましたけれども、もう少しここはこうだなというのは今のところあったりはしますけれど、じゃあそこはこういう言い方をしたらきっとうまくいくだろうな、とかここのフレーズは無理そうだったら、代わりにこうした方が現実的だな、というのをやっているところです。

乙:じゃあライブでは友達が見られるっていうことですね。

カオ:そうですね。

◆「吠え面」の後、勢いで2曲共作した話

カオ:で、ネシさんとは、LINEのチャットでアレンジを作り上げて、その勢いで…曲を作りましたね。

―――ネシ:あー!そうですね、作りましたよね!

カオ:チャットでアレンジをしてくのが結構楽しいなって…ネシさんとの間で。あの勢いのまま、作ったなって感じますね。

―――ネシ:そうですね。

カオ:なんか、もうちょっとやってみましょう…みたいな。

―――ネシ:そういうノリで…ただ私は、自分の仕事が終わったので余裕だったんですけど、カオさんはまだ全然終わってないじゃないですか。

カオ:ただ、レコーディングがちょうど空いた時期ではあったので…

―――ネシ:じゃあ、出来なくはないよっていう状態だったわけですね。いいタイミングだったんですね。「吠え面」がラストプロジェクトだったから、その後にできたってことですね。

カオ:で、歌詞を一行ずつ書いてみたら面白いんじゃないかっていうご提案をいただきました。

―――ネシ:私が言ったんでしたっけ?歌詞を一行ずつ…ドキュメントシートを共有して書こうって言ったんですよね。まずは歌詞ありきで…普段は曲先?

カオ:ですね。曲先だと思います。サビメロディーができたら、歌詞ストックから合いそうなものを出してきて…

―――ネシ:1行だけのやつですよね?

カオ:ですね。という感じです。

―――ネシ:まず、パンチラインをサビに当てて来るわけですね。それを膨らませて、肉付けしていくみたいな…じゃあ、このやり方ってどうでしたか?歌詞を交互に書くと、自分の思っていた展開にはならないじゃないですか。「物語ズレてるよ」みたいなことがやっぱり起こってくるわけですよね?それは大丈夫でしたか?

カオ:一行しかなかったので、これをどんな起承転結にしてやろうもないものを投げたので、楽でした。

―――ネシ:あーそっか。私も楽だったんですよね。最初に提示されたことで、ある程度方向性が決まるので。歌詞作る際の参考資料が私の場合は辞書だったりするんですけど、辞書が大好きで外国語辞典とか読んでたりするのですが…

カオ:知らない片仮名いっぱいありましたよ。

―――ネシ:もっと面白いのが「新・田中千代服飾辞典」っていう、「そんなの見たことも聞いたこともないよ?」っていうファッションアイテムが年代ごとに出てくるファッション辞典の引用だったり。そういうのを書き溜めているノートがあって、それを放出する機会でもあったりするので…だけどそこで絞り込まれているので、余計なものが入らなくて済むっていうか。

カオ:力抜いてできた気がします。

―――ネシ:そうですね、まあ仕事じゃないし、別に完成しなくてもいいっていう気楽さはありましたね。私も仕事じゃなくて作れるっていうのが本当に久しぶりだったので、アレンジができたことでちょっと自信になってたし…

カオ:フレネシさんの作曲でしたね。

―――ネシ:「君のアンダンテ」はストレスなく出てきて、でもAメロとBメロしかないじゃないですか。だから「大丈夫?」と思って…でも古い映画音楽だとその構成の曲が当たり前に存在していて…

カオ:多いですよね。

―――ネシ:そう。なのである意味、それって私の中の理想で、マンシーニやバカラックの曲だと、2分以内で終わる場合も結構あって、構成がABABでエンディングのような、無駄のなさというか…もしかして理想に近いものが出てきちゃったのかもとはちょっと思いました。自分で言うのも恥ずかしいですけど。

カオ:すごい速度でびっくりしました。

―――ネシ:そっか…早かったですよねそういえば。

カオ:私発信のメロディーでもその勢いで一曲作ったんですけれども。

―――ネシ:カオさんもめっちゃ早かったですよね。これは、もともとサビがあったんですよね。

カオ:そうですね。それこそ2010年くらいにフレネシを聴いて「こういうの作りたいな」で作ったサビがあって、ずっとサビ以外はなかったんで…じゃあこの機会に良いかも…と思って投げてみたらレスポンスいただいたんで。

―――ネシ:それで中華風にしようって話になったんですよね。ウーロン茶のCMソングみたいなのを作りたいって私が言って…このメロディー自体はペンタトニックではないけれど、そうしたい気持ちがあったんでしょうね。そうしたら、とても良いものが来ましたね。

カオ:はい、良かったです。

―――ネシ:あと、中国語?中国語を取っていたんですか?

カオ:大学でちょっとだけやってました。でも中国語訳はしてもらいましたね、ネシさんに。

―――ネシ:あー、そっか、あれはGoogle翻訳を往復しただけなんですけど…往復で意味を確認しただけで…でも大丈夫だったんですよね?

カオ:カイ(台湾在住のネイティブ。カオさんのお友達)に聞いたところ、大丈夫でした。そのとき書いた曲は次のライブでやろうと思っています。「シャルル・ボネ彼氏」という曲で…

―――ネシ:このタイトルでいいのかっていう不安はずっとあって…大丈夫ですか?

カオ:はい、良いと思います。もうありのままそのまま、しっくり来たなあという。

―――ネシ:良かったです。私の目が見えない話しましたっけ?

カオ:はい。真ん中らへんでしたっけ?

―――ネシ:今は中心視野ではないんですけど、10代の終わりに、ある網膜の病にかかって、そのときに網膜に穴が開いていることが判明して手術をした名残なんです。で、視野の一部がずっと欠けていて。そこに時々ものすごい勢いで文字が流れてきて、調べていったらシャルル・ボネ症候群だろうということが分かって。人によってはそれが人の顔だったりとか…存在しない何かが見えるということみたいです。脳が情報を埋めようとして見せる幻らしいんですが…。まあ、このタイトルで私は満足しているんですけれど…カオナシさんがそれでいいのかなあ、っていうのは正直ずっと思っていて…。

カオ:すごくフレネシさんが作った感じがして…お気に入りです。

―――ネシ:病名ではありますが、シャルル・ボネで見える幻覚を元に絵を描く方もいらっしゃるので、患っている方にとってそれほど深刻なものではなさそうだし、悪くないのかな…というところで。

カオ:今回それはライブでだけやるんですけれども、せっかく何か2曲書いたんで…

―――ネシ:何か2曲書いたんで…

カオ:いつか形にできるといいですね。

―――ネシ:ですね…形にしたいです。形にして世に出す機会があったら幸せですね。

カオ:そういう機会が来るようにがんばって活動していきます。11年越しの復活っていうこともあるんで、あるんじゃないかなという…そういう風に向かっていけばがんばれます。

◆音楽は音楽だけでできていない

―――ネシ:カオさんの「お面の向こうの伽藍堂の向こう側」というパンフレット掲載用に矢島大地(MUSICA)さんにインタビューを受けた際、ご自身のエピソードをたくさん話してくださって。私があまり心を開かないであろうことへの配慮として、自分の手の内を見せてくださったのだと思うんですけれど。自分が語るのも楽しいんですけれど、語ってもらう楽しさって…信頼されているというか、自分の存在意義を高めてくれるものだと思うので。

カオ:ネシさんは聞くのは得意な方だろうなというのは思います。

―――ネシ:私が聞くのがですか?本当ですか?

カオ:作るにあたって歌詞のことを聞いていただいたり…

―――ネシ:普段聞けない話を聴けるという面白さはあったし、まあ…何ていうんだろう?音楽って、音楽だけでできてないなあ…って思いますね。では、この辺で…長谷川カオナシさん、本日は長い長いインタビューにお答えいただき、ありがとうございました!

カオ:ありがとうございました




インタビューを終えて

インタビューを実施した10月31日は、雨のハロウィン。この2日前には、カオナシさんの「ハエ記念日」が配信開始となり、そして当日は私の11年ぶりのシングルが配信された日でもありました。せっかくなので、何か仮装でも…ということでカオナシさんには女装をしていただき、私もお揃いのレースワンピース、バブーシュカでneo森ガールなスタイリングの提案をさせていただきました。さらには、ジャック・ドゥミ監督の「ロシュフォールの恋人たち」の「双子姉妹の歌」のシーンをオマージュしたショットも。ベンチの写真、お気づきになりましたでしょうか?

このインタビューの席には、カオナシさんと私の他、カオナシさんのマネージャーさん、私の所属する乙女音楽研究社主宰の川島イタルさん、本連載のカメラマンで上司、かつクリエイターのヨシナガタツキさんが同席していました。

インタビュー後、カオナシさんと会って2回目ながら人格を一瞬で見抜かれて怯むイタル社長を横目に、私自身はインタビュアの立場でありつつ、いつの間にかインタビューされる側であるかのように振舞っていたことにようやく自覚的になり、若干の気まずさを感じていました。カオナシさんからのレスポンスは、投げかけた質問を内包して跳ね返り、いとも自然にこちらが語ることを許容する空気を纏っているかのようでした。

インタビュー後「聞く側なのにも関わらず、多く話しすぎて申し訳ありません…」と謝罪すると「それも含めて私ですから、そのまま残して記事にしてください」と返す、カオナシさん。調和を重んじる彼らしいエピソードとして、ここに記しておきたくなりました。

ニーチェの「深淵をのぞく時深淵もまたこちらをのぞいているのだ」ではないですが、問えば問うほどに自分自身が顕在化して解放されていくような…。それはまさに、今回アレンジした「僕の居ない明日に吠え面かきやがれ」の主題である「自己との対峙」ともリンクする話かもしれないなあと思うなど。いま改めてこの歌詞に触れると、当初はどう扱うべきか分からなかった「攻撃性」の部分はすっかり鳴りを潜めて、自身を含む何者をも否定しないために不可欠だった「仮想敵」が、愛すべき存在のように思えてくるのでした。

(写真:ヨシナガタツキ)





さて、気になる今後の予定は…

来年2・3月に長谷川カオナシさんの初ソロアルバムリリース記念ライブの追加公演として、東名阪の主催ツアー「フシアナサンとロムの板」を開催!


【日程】
東京・府中スレ 2/27(金)

東京 府中の森芸術劇場どりーむホール

愛知・名古屋スレ 3/1(日)

愛知 中日ホール

大阪・西梅田スレ 3/2(月)

大阪 サンケイホールブリーゼ

だそうです。

WebVANDAによるディスクレビューとフレネシ本人によるアレンジの元ネタ解説はこちら。

https://www.webvanda.com/2025/11/blog-post.html